事例検討会が開催されました(WISC-V検査の活用について)
ロコペリでは、職員の資質向上・振り返りのために、定期的に事業所での支援を取り上げて事例検討会を行っています。
子どもたちの成長は日々変化し続けています。私たち支援者も、その成長に伴う状況の変化に対応しながら、子どもたち個々の困りごとに関して対応していく必要があります。
今回は、放課後等デイサービスご利用の男の子A君のWISC-V検査を活用した事例を紹介します。
ロコペリで実施しているWISC-V検査について、詳しくは、下の記事をご覧ください。
A君の紹介
A君は、
自分の気持ちを表出することが苦手
行動までに時間がかかりマイペース
こだわりの行動がみられる
というお子さんです。小学校5年生の時点で、支援級での学習を行っていますが、今後普通級に行けるかどうか、また中学進学で支援級を使った方が良いかを判断するためにお母さまの希望でWISC-V検査を受けることになりました。
1回目の検査
初めての検査結果では、
〇聞いたことを記憶しておく力が優れている。(WMIが高い)
〇言葉の理解の苦手さがある。(VCIが低い)
〇周囲の状況を見て、どのように行動すべきか適切に判断することの苦手さがある。(VSI,FRIが低い)
ということが分かり、話を聞くことはできているけれども、言葉の意味を理解するまでに時間がかかったり(マイペースさにつながっている可能性がある)、A君の理解と周囲の認識がずれたり(こだわりの行動につながる可能性がある)している、ということがわかりました。
この結果から、
〇モデル・ひな形を示しながら、言葉で表出する機会を増やす。(VCIを高めるトレーニング)
〇SSTを行い、「こんな時どうすればいいか」を考えながら、様々な場面の対応方法を身に着けたり、地域の方とのかかわりを増やす中でモデルを示しながら対社会的一般常識を伝えたりする。(VSI,FRIを補い、高めるトレーニング)
というトレーニング方法が浮かび上がってきました。
保護者の方には、検査結果とともに、A君が自分自身の力をもっと発揮できるようなかかわり方、トレーニング方法と、様々な体験から因果関係を把握できるようにして、初めてのことに対する不安を消し去ることでさらに出来ることを増やしていけるようにサポートが必要ですが、普通級への移行を開始するのは良いタイミングであることをお伝えしました。
面談後、学校へ検査結果をもって普通級への移行を希望することについて、保護者の方と連携していくことを提案しました。
2回目の検査
一年後、6年生になったA君の中学進学に向けて、2回目の検査を実施しました。
2回目の検査では、1回目の検査と比較して評価することができました。
〇言葉を理解する力がとてものびている(VCIが高くなっている)
〇物事を処理する力がついている(PSI)
〇耳で聞く力(WMI)と目で見る力(VSI)は前回よりも低くなっているが、その分推理する力(FRI)が高くなっている
ことばに関するトレーニングを続けたことで、言葉を理解する力が高くなっていることが分かります。また、推理する力がついたことで、周囲を意識することが出来るようになった結果、意識がいろいろなところへ向きやすくなっていることが考えられます。このことから、
〇量が多いと記憶につながりにくいため、処理の量を少なくして確実に記憶出来てから、新しい記憶情報を与える方が有効である。
ということが分かりました。
この結果を伝える面談の際、保護者の方から、
「学校外活動の中で対社会的一般常識を教えていった結果、パターンがあればそれをもとに行動に移すことが出来るようになり、自分から行動することが出来るようになりました。」
とのお言葉をいただきました。
状況が少し変わるとパターンが分からなくなってしまうこともあるとのことでしたが、今後意識して様々なパターンをA君に伝えていくとのことで、6年生では普通級での時間を多く増やしてもらい、中学は普通級での進学を希望されるとのことです。
まとめ
今回の事例では、
言葉の理解に時間がかかり、自分の意見を自分から話すことに苦手さがあるA君は、行動もゆっくりであったために、物事を早く処理することの苦手さからそのような状況になっているのではと検査前は予測していました。しかし、検査を行うことで、作業(処理)するスピードと正確さ(処理速度)の問題ではなく子どもの柔軟な思考力、新しい問題の解決能力、様々な概念間の関係性を理解する能力の苦手さ(流動性推理)からくるものであることが確認できました。
この検査結果をもとに、1年間、支援を流動性推理の能力をトレーニングする内容にして、家族の協力のもと行ってきました。
その結果、流動性推理の数値も上がり、実際に周囲の状況を見ての行動が出来るようになることで、自分の意見が言えるようになったり、自分で理解して行動することが出来るようになったことで自主的な行動も見られるようになったと思われます。
また保護者の方からは、子供の状況が理解でき、自分も積極的に取り組んできたことで、さらに新たな問題解決の方法を母親自身で見つけることが出来たと報告もいただきました。
WISC-V検査をすることでできること
WISCーV検査を行うことで、
①得意なことと、苦手なことを数値的に確認する。
②1年に1回の検査を行うことが出来ることで、支援がお子様にあっているかの確認
③支援級から普通級への移行のタイミングを確認
が出来ることが分かりました。
さらに子供たちの状況は日々変化しているために、現場で実際こどもたちの状況を確認しながら、検査でアセスメントすることが出来ることは、子供たちにとっても自然体で十分な能力を発揮した状態での検査結果になると感じました。
今後も、子供たちの成長に寄り添う支援を行っていくために、検査を活用してまいります。